マンションに関する裁判事例 3



【用途】店舗の業種制限は店舗所有者に特別の影響を及ぼすか(1988)

ラーメン屋の営業を承認しなかった組合(及び管理会社)に対し、店舗所有者が損害賠償請求と総会決議の無効を訴えた事例で、裁判所は次のような理由で請求を棄却しました。

■判決の要旨
一般に区分所有者は他の区分所有者の共同の利益に反する行為をしてはならない義務を負っているので(法6条1項)、一般的制限を規約において具体化したとしても、一般的制約の範囲内である以上、一部の区分所有者の権利に特別の影響を与えたとはいえない。ラーメン屋の営業は、被告の理事会は、著しい臭気等を発生し本件建物の住民の生活を害するものと判断したが、理事会としてはそのように判断するのは当然のことと考えられ、被告が臨時総会でこの決議をしても、これを不法行為ということはできない。

なお、この請求には、「総会資料が自分のところに届かなかった」ということも総会無効の理由として訴えていましたが、組合に瑕疵はあるものの、「軽微な瑕疵」として無効は認めませんでした(※原告は住所を移転し、届けは出していなかった。組合は登記簿謄本の住所に送付し、所有する専有部には投函しなかった)

(昭和63年11月28日 東京地裁)
☞参考:「マンション管理に係る紛争事例集」(高層住宅管理業協会発行)
☞参考:管理見積.com>判例紹介ページ
(2010.1)
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【用途】保育室としての利用差止を認める(1994.9)

区分所有者の夫が経営する病院の看護婦等の保育室として使用することが問題となったケースで、裁判所は次のような理由で利用差止を認めました。

■判決の趣旨
病院の公共性、人員確保の必要性があるとしても、本件マンションの区分所有者の負担において、本件建物を保育施設とすることにより病院経営が成り立つと言う経済的利益を得ていることになる。
マンションの住民らの被害も少なくないこと、本件マンションの所在地の環境が比較的閑静であること、被告らには他の代替手段がないわけではないことを考慮すれば、住民らがこのような使用を受忍すべきであるということはできない。

(横浜地裁 平成6年9月9日)
☞参考:「マンション管理に係る紛争事例集」(高層住宅管理業協会発行)
(2014.3)
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【ペット】ペットの鳴き声で慰謝料(2009.11)

(2009年11月12日 東京地裁)
使用細則で禁止されているペットの鳴き声による騒音で平穏な生活を害された、として、隣室区分所有者に50万円の慰謝料支払やペットの「と殺」による飼育禁止等を求めた訴訟の判決が平成21年11月12日東京地裁であった。

裁判官は「鳴き声で一定の精神的苦痛を感じたことが認められる」として飼育者に弁護士費用を含め6万円(うち慰謝料は5万円)の支払を命じた。

訴えを起こしたのは東京・渋谷のマンションに住む区分所有者の男性。
平成20年、隣住戸でダックスフンド2匹を飼育する男性区分所有者を提訴した。
係争中に飼育者の親族がペットを連れて転居したため、と殺による飼育禁止請求は取り下げられている。

被告側は、3年前からペット飼育を開始。平成20年4月、同じマンション内で引越し、原告の隣室に入居した。
ペット飼育について使用細則は「他に迷惑または危害を及ぼす恐れのある動物を飼育することを禁止する」と規定される、いわゆる「あいまい規定」だったが、原告側から鳴き声でクレームが出ていた点から、管理組合側は被告側にペット飼育方法について改善するよう警告書を出していた。
原告は「ペットの鳴き声でテレビの視聴や会話も出来ず、睡眠不足で体調不良になっている」と主張・鳴き声を測定器で計測したところ、騒音について都が定める基準を超える数値が得られた、と訴えていた。

マンション管理新聞 平成21年第793号より
(2010.1)
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【ペット】飼育禁止の規約変更の有効性と飼育禁止請求について(1991・1994)

事案の概要(1991年12月12日・横浜地裁)
マンション管理組合の管理者X(原告)が、区分所有者Y(被告)において犬を飼育していたところ、臨時総会を開催し、旧規約を改正し、犬、猫、小鳥等のペット、動物類を飼育することを禁止する旨の新規約を議決したものの、Yが犬の飼育を止めなかったため、XがYに対して、犬の飼育を禁止する請求をした。
本件では、新規約の制定が有効であるかどうか、犬の飼育を禁止することができるかどうかが問題になった。
本判決は、決議の効力を認め、請求を認容した。

ポイント
  • 小動物を飼育しているのは分譲当初から被告のみであり、本件マンション入居者の間では、動物は原則禁止という認識があったと推認される。
  • 多くのマンションではトラブルを回避するために動物の飼育を規約で禁止しており(※1991年当時)・・・現在のわが国の社会情勢や国民の意識等に照らせば全面的に動物の飼育を禁止した本件規約は相当の必要性および合理性を有するものというべきである。
  • 被告は、犬の飼育は子供の自閉症治療の一環と主張していたが、被告の子供が自閉症であると医師に診断されたことは無く・・・本件規約により動物の飼育を禁止されることによって被告の受ける損害は、社会生活上通常受忍すべき限度を超えるものとはいえず、本件規約改正について被告の承諾がないことは規約改正の瑕疵に該当しない。

事案の概要(1994年8月4日・東京高判)
前記判例の控訴審判決であり、Yが控訴した。本件では、新規約の制定が有効であるかどうか、犬の飼育を禁止することができるかどうかが問題となった。
本判決は、犬の飼育を禁止する規約が無効であるとはいえないとして、控訴を棄却した。
ポイント
  • 控訴人は、本件マンションにおける動物の飼育の全面禁止を定める本件規約改正は控訴人の権利に特別の影響を及ぼすから、区分所有法第31条1項により控訴人の承諾が必要であり、承諾なくして行われた本件規約改正は無効であると主張する。
  • しかしながら・・他の入居者の生活の平穏を保証する見地から、管理規約等により自己の生活にある程度の制約を強いられても止むを得ないところであるといわねばならない。もちろん、飼い主の身体的障害を補完する意味を持つ盲導犬の場合のように何らかの理由によりその動物の存在が飼い主の日常生活・生存にとって不可欠な意味を有する特段の事情がある場合には・・その権利に特別の影響を及ぼすものというべきであろう。
    これに対し、ペット等の動物の飼育は、飼い主の生活を豊かにする意味はあるとしても、飼い主の生活・生存に不可欠のものというわけではない。

☞参考:「解説マンション管理適正化指針」(BOOK)
(2011.1)
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【ペット】一代限りの飼育決定後に飼育したペットについて(1998)

小鳥・魚類以外の動物の飼育を禁止していたが、規約に違反して犬猫を飼育する者が複数いた。
総会で当事犬猫を飼育中の組合員による「ペットクラブ」を設立させ、ペットクラブの自主管理の下で、当事飼育している一代限りのみの飼育を認めるというルールをつくったが、その後、シーズーの飼育を始めた組合員(A)がいた。
管理組合は飼育の禁止を請求、裁判所は次のような理由で請求を認めた。

■判決の要旨
本件マンションは14階建ての居住用の分譲マンションであり、動物の飼育を配慮した設計・構造にはなっていない。管理組合は、区分所有者の共同の利益の保護のために、ペットクラブを設けた。この措置は共同の利益保護を目指しつつ、すでに飼育していた犬猫が寿命を全うできるよう配慮した経過措置であって、十分合理的なものである。
飼育者Aに対し、犬の飼育禁止を請求することは権利の濫用に該当しない。
飼育者Aは、現代社会におけるペット飼育の重要性、権利性および今日の社会情勢の変化をあげるが、本件規定は、前示のとおり趣旨、内容で不合理とはいえないこと、本件訴えの提起が管理組合の総会において承認されていることなどに照らすと、管理組合が本件規定に基づいて本件訴訟を提起することが権利の濫用であるとは到底いえない。
(原審:東京地裁平6(ワ)17281 号 犬の飼育禁止等請求事件 最高裁:平成10年3月26日)

☞参考:「マンション管理に係る紛争事例集」(高層住宅管理業協会)
(2014.1)
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【騒音】フローリング張替えによる騒音について(2006)

事案の概要(2006年7月30日・東京地裁八王子支部)
Xら(原告)は、3階建のマンションの1階に区分所有権を有する者であり、Yは2階に区分所有権を有し、家族と共に居住していたが、Y(被告)が絨毯張りの床をフローリング床に張り替えたために、騒音が発生するようになり、Xらが損害賠償、絨毯張りへの復旧工事を請求した。
本件では、床の騒音が受忍限度内のものであるかどうかが問題になった。
本判決は、騒音が受忍限度を超えているとし、損害賠償請求を認容したものの、他の請求は棄却した。

ポイント
  • 本件マンションのような集合住宅における騒音被害・生活防音については・・平均人の通常の感覚ないし感受性を基準として判断して、一定の限度までの騒音被害・生活妨害は、このような集合住宅における社会生活上止むを得ないものとして受忍すべきものである。
  • 被告は本件フローリング施工に際し・・本件マンションの管理組合規約・使用細則に違反する形で、原告らの承認を得ること及び本件マンションの管理組合規約・使用細則に違反する形で・・正規の届け出なく・・絨毯張りの場合と比べ防音・遮音効果が4倍以上悪化する防音措置(遮音材)の施されていない1階用床板材を使用して敷設されたものであった・・本件フローリング敷設による騒音被害・生活妨害は社会通念上の受忍限度を超え、違法なものとして不法行為を構成するということが出来る。
  • 差止め請求が認められるか否かは、侵害行為を差し止めることによって生ずる加害者側の不利益と差止めを認めないことによって生ずる被害者側の不利益とを・・比較衡量して判断されるが・・差し止め請求を是認する程の違法性があると言うことは困難と言わざるを得ない。

☞参考:「解説マンション管理適正化指針」(BOOK)
☞同内容ページ:大阪市マンション管理支援機構>判例教室
(2011.1)
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【トラブル】反対者を「危険加害者」扱い 名誉毀損認める(2009.7)

耐震補強工事等を計画していたマンションで、管理組合が工事反対者を「危険加害者」と表現した議事録を全戸配布し、区分所有者2名が名誉毀損として理事長らに損害賠償等を求めていた訴訟の判決が7月23日東京地裁であった。
裁判官は名誉毀損を認め、理事長に4万円ずつの支払を命じた。原告の着工差止め請求も認めた。

管理組合は平成15年に耐震診断受診後、耐震補強やスラブ床下構造の配管等の改修工事を計画していたが、手法をめぐり合意が難航。
同18年4月の臨時総会では中間法人設立や設計契約承認のほか、着工予定時期のめどを決議した。
ただ実施に必要な特別多数決議等はされず、平成19年8月の臨時総会議事録に工事反対者を「安全確保を妨げる『危険加害者』」、「『危険加害者』の妨害が実施の唯一の制約」などと記し、全戸配布した。

[マンション管理新聞 2009年9月15日号より]
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【トラブル】「一括受電」拒否で59条競売

高圧一括受電への変更工事を拒否した区分所有者に対し、59条競売請求
昨年12月、高圧一括受電への変更を決議した管理組合が、電力会社との契約切り換えにかかる解約の申込書を唯一提出しなかった区分所有者について「共同の利益に反する行為だ」などとして、区分所有法59条に基づく競売を求め横浜地裁に提訴した。

電気料金が削減できる同工事だが施工に当たっては全戸の解約が必要で、現在工事ができない状態となっている。
1月18日には第1回の口頭弁論が開かれた。

訴状によると、マンションは築30年超。昨年5月の総会で電気幹線の老朽化に伴う改修工事と、電気料金8%が削減可能な高圧一括受電システムの導入工事を特別多数で決議した。
決議の前後には、管理組合は住民に向け広報誌と説明会による周知を図っている。

その後事業者は申込書を各戸に配布、9月には回収したが、1戸の区分所有者だけが提出を拒否した。
この区分所有者は説明会と総会には出席せず、委任状や議決権行使書も提出していない。

管理組合は区分所有法59条に定める「他の方法によってはその障害を除去して共用部分の利益の確保その他の区分所有者の共同生活の維持を図ることが困難であるとき」等に該当するとし、競売と工事中断等にかかる損害賠償を請求した。

管理組合側弁護士は「工事を実現するにはこの方法しかなかった」とする。
訴えが認められれば、競売にかけて落札した人に申込書を提出してもらう形となる、としている。

[マンション管理新聞 2010年1月25日号より]
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