マンションに関する裁判事例 2



【駐車場】分譲業者による駐車場専用使用権売却を認める(1998.10)

駐車場の数が全戸数に満たないマンションでは駐車場をめぐるトラブルが起きやすく、特に、マンションの分譲時に分譲業者が敷地内に駐車場を設け、その専用使用権を特定の区分所有者に有償で分譲し、以後その区分所有者だけが駐車場を使用しうる利用形態のマンションでは、駐車場を利用できない区分所有者は不公平をと感じるので、紛争になりやすいといえます。

この方式による場合、分譲業者は、マンションの売買契約書に、駐車場専用使用権の対価金額を記載するとともに(利用者以外の契約書には金額は空欄)、「マンションの買主は駐車場を特定の区分所有者に専用使用させることを承認する」旨の条項を定め、さらに分譲時の重要事項説明書および管理規約案にも同様の規定を記載するのが通例です。

この分譲方式については、そもそも分譲業者は敷地利用権のほかに駐車場専用使用権を売却するすることによって二重の利益を得ることになるので、駐車場専用使用権分譲契約は公序良俗に反する無効な契約ではないのか、また、その分譲の対価は管理組合に帰属するものではないのか、ということが法的に問題になります。

しかし、判例は、駐車場専用使用権を取得しなかった区分所有者も売買契約書などの記載によりその専用使用権を承認してマンションを買受けたのであり、また、分譲業者はマンションの分譲価格と専用使用権の分譲価格を総合して販売計画を立てることもあるので、分譲業者が購入者の無思慮に乗じて暴利をむさぼるなどの事情が無い限り、駐車場専用使用権分譲契約がただちに公序良俗に反するものとはいえず、その対価は合意内容に従って分譲業者に帰属すると解しています。(最判平成10年10月22日民集52巻7号1555頁)。

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(2014.1)
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【駐車場】普通決議で制定した駐車場使用細則が無効とされる(2004)

原告 区分所有者
被告 管理組合(区分所有者21名
本件マンション販売業者であるAは、先に購入して駐車場契約を希望した者との間で順次駐車場契約を締結、12台分の区画が満車となり、その後の購入者はマンション外の駐車場を利用せざるを得なかった。
この駐車場は規約上「共用部分」とされているが、管理運営に関する具体的な規定が存在しなかった。
組合では、全区分所有者が平等に使用できるよう、ローテーション方式等を定める細則を検討したがまとまらず、平成14年、現に使用している区分所有者が有利なかたちでの細則が、駐車場を使用する12名の賛成により作成された。Xらは駐車場使用細則が、特別決議を要する「規約」にあたるとして、当該決議の無効確認を求めて提訴した。

■判決の要旨
次のような理由でXの請求を認容した。
当該事項が「管理」に関する事項であれば規約によるまでもなく集会の決議で決することができ(区分所有法18条1項)、「管理」の範囲を超える場合には、規約により定める必要があると解するべきである。
本件細則は特定の区分所有者の先着順による契約を容認し、今後も優先的な使用を認めるものである。このような態勢を認めることは共用部分たる駐車場の性質に反することは明らかである。
したがって、このような内容の規定事項は、区分所有法18条1項で定める共用部分の「管理」の範囲を超えるものであり、同法30条1項、31条1項にいう「規約」により定めるのが相当である。
(那覇地判 平成16.3.25 判タ1160-265)。

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(2014.3)
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【駐車場】抽選制の導入は規約の変更にあたるか(2003.11)

マンションは戸数375戸に対し、駐車場は126台であった。
第2回管理組合総会で、駐車場使用細則を過半数決議で「2年毎の抽選による入れ替え制」にしたところ、入居当初から駐車場を使用していた組合員が「分譲業者からはずっと使えると言っていた」と、本件は規約事項であり、共用部分の変更にあたるから特別決議が必要である、と訴えを起こした。

■判決の要旨
次のような理由で請求を棄却
定めた細則は現在の規約に抵触していない、規約の変更にはあたらない。
また「共用部分の変更」にもあたらない。
「共用部分の変更」は「共用部分の管理」に対する概念であり、「共用部分の変更」とは、その形状または効用を著しく帰ることであり、「共用部分の管理」とは、変更に至らない程度の利用・改良に関する行為である。
本件駐車場の契約期間は1年であり、期間満了一ヶ月以上前に管理組合又は区分所有者一方から意義があれば、契約は更新せず終了することが認められる。
そして、2年毎の抽選制の導入は、更新の制度をなくした賃貸借契約の内容の改定であるから、共用部分の効用を著しく変えるものではない。
(浦和地判 平成5.11.19)。

☞参考 マンション管理に係る紛争事例集(高層住宅管理業協会)
(2014.3)
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【駐車場】留保型の専用使用権を消滅・有償化する総会決議は有効か(1998)

分譲業者が自己所有地にマンションを建築、2階以上を分譲し、1階店舗は分譲業者が取得。分譲契約書・管理規約にも敷地の使用権は分譲業者が取得することを規定し、敷地の南側と南西側に駐車場計8台を無償で専用使用してきた。
これに対して、管理組合は南西側駐車場の専用使用の消滅、南側駐車場の有償化を決議し、分譲業者に使用差止・使用料支払を求めた。

■判決の要旨
消滅決議について
駐車場は分譲当初から店舗のために取得したもので、消滅させられた場合、営業に支障をきたすこと、他の区分所有者は、駐車場・駐輪場がないことを前提としてマンションを購入していることを考慮すると、分譲業者が受ける不利益は受忍限度を超えるものと認められ、「特別の影響」(法31条1項後段)にあたり、分譲業者の承諾が無いままなされた消滅決議は効力を有しない。
有償化決議について
有償化の必要性・合理性が認められ、設定された使用料が社会通念上相当な額であれば、有償化を受任すべきであり「特別の影響」を及ぼすものではない、とし、諸事情を考慮し、相場よりもかなり低い金額で認定しました。
(平成10年11月 最高裁)。

☞参考 マンション管理に係る紛争事例集(高層住宅管理業協会)
☞参考 大阪市マンション管理支援機構>判例教室

(2014.3)
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【設備】床下排水管は共用部分に当たる(2000.3)

事案の概要(2000年3月21日 最三判)
X(原告)はマンションの707号室を区分所有し、Y(被告)はその階下の607号室を区分所有していたところ、排水管から水漏れ事故が発生し、YがXに損害賠償金の支払を求めた。Xは、債務の不存在確認、管理組合であるZらに対し排水管が共用部分であることの確認、Yに対し支払った排水管の修理代金の返還を請求した。
第1審判決(東京地判1996年年11月26日)は、排水管が共用部分であり、損害賠償債務が存在しないこと等を認め、請求を認容したため、Zのみが控訴。
控訴審判決(東京高判1997年5月15日)は、排水管が共用部分に当たるとし、控訴を棄却。Zが上告。
本件では、マンションの特定の専有部分の排水のために利用される排水管の枝管は、建物の区分所有等に関する法律2条4項所定の「専有部分に属しない附属物」であり、共用部分に当たるとし、上告を棄却した。

ポイント
  • 本件排水管は、コンクリートスラブの下にあるため、707号室から本件排水管の点検、修理を行うことは不可能であり、607号室からその天井板の裏に入ってこれを実施するほか方法は無い。
    この事実関係の下において、本件排水管は、その構造及び設備場所に照らし、建物の区分所有等に関する法律第2条4項にいう専有部分に属しない建物の附属物に当たり、かつ、区分所有者全員の共用部分に当たると解するのが相当である。

☞ 「解説マンション管理適正化指針」(BOOK)より (2011.1)
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【設備】排水管漏水事故 管理組合の過失認める

電気温水器用排水管の漏水事故で、管理組合の加入する保険会社A社が施設賠償保険の適用を拒否し、被害者が加入していた大手損保会社B社の団地保険から保険金が支払われ、 B社が保険代位で管理組合に約770万円の損害賠償を求めていた訴訟で、控訴審判決が1月、東京高裁であった。

裁判長は一審判決を変更し、たて管の管理に対する管理組合の過失と工作物保存の瑕疵を認め、弁護士費用を除く約700万円の支払を管理組合に命じた。
管理組合側は上告している。

裁判記録によると、埼玉県内の築約30年のマンション。
点検業者が電気温水器の貯湯タンクから排水した際、排水たて管の閉塞部から水が逆流し、専有リフォームして間もない住戸の床面等が汚損した。

調査報告書は管の閉塞原因を「異物や鉄錆」と指摘。
一審で、B社側は「管理義務を怠った管理組合の過失責任(民法709条)および共用部分の瑕疵が原因で発生したことによる管理組合の工作物責任(民法717条)がある」と主張。

管理組合側は「洗濯ばさみと思われる固形物の混入で管が閉塞し、賠償責任は混入者にある」と反論し、一審判決は排水管を「通常の安全性を欠くような状態にはなかった」と認め、原告請求を棄却した。

控訴審ではB社側は「管理組合の加入保険が支払を拒否したことから本件紛争は発生した」と指摘。
管理組合側の「共用部分は管理組合が専有しているのではない」との主張に対し、「それが理由で保険金が支払われないのであれば管理組合が保険に加入した意味は大きく損なわれる」と述べた。

控訴審判決で裁判長は「たて管の管理義務を負う管理組合は、錆が溜まっている場合には清掃を実施するなどの義務を負う」とし、「約26年間、点検も清掃もせず、その結果本件事件を惹起させたものであるから、管理組合には過失が認められる」と判じた。

また「閉塞部分があったのであるから、排水管として本来備えているべき性状を欠き工作物の保存に瑕疵があったことは明らか」とも述べ、管理組合を占有者と認めたうえで、「民法717条1項によっても損害賠償責任を負う」と管理組合に支払を命じた。

【参考:民法717条1項(占有者責任)】
土地の工作物の設置又は保存に瑕疵があることによって他人に損害を生じたときは、その工作物の占有者は、被害者に対してその損害を賠償する責任を負う。
ただし、占有者が損害の発生を防止するのに必要な注意をしたときは、所有者がその損害を賠償しなければならない。

[2010年第805号 マンション管理新聞より]
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